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イギリスからの帰国とこれから

こんにちは、昨日ギャラリーと事務所の間をガンダッシュしていたらカメラを無くして落ち込んでいるWolphtypeです→7/18見つかりました。日本の治安に感謝…イギリスから帰国して約2週間。今回は、帰国の様子と留学での気づき、そして今後どのようにやっていきたいかについて書いていこうと思います。

なお、10ヶ月弱の留学の振り返りについては、どこかのコミケで備忘録として写真と一緒に本にまとめ、出そうと思っています。その際は手に取っていただけたら幸いです。

また、大学院で作った書体の見本をBOOTHで販売開始しました!ほとんど印刷費と送料のみの値段となっております。ご興味がある方はBOOTHをのぞいていただけると幸いです。

帰国前の数日間と帰路

卒業制作の書体のデータ提出が6/13, そしてその見本帳の提出が6/20。そこから数日間休んだ後、帰国への準備と家の片付けを始めました。もともと9月から12ヶ月の予定で契約した家でしたが、突然6月末で終わりということになり、帰国の準備もしつつ家の掃除もしなければいけないのが大変でした(イギリスは家具や家電が備え付けなので、その辺りの清掃もしないと敷金をガッツリ取られるのと、何よりライムスケールがめちゃくちゃこびりつくのでかなり手間がかかります)。こちらにきた時には30kgのスーツケース+手荷物7kgでしたが、家にある服や本などを測ったところ、最終的には80kgを超える大荷物になっていました。なんでやろなあ…

こっちで買ったけど食べきれなかった食料や持ち帰れない電子機器類、ラグや椅子などの家具はチャリティーショップへの寄付やFacebook Marketplace, Olioといったアプリで売ったりタダで渡したりしました。日本よりもプライバシーの観念が緩いので、ユーザー間で連絡を取って家に取りに来てもらうシステムで、同級生などにも売ったりしつつほとんどの日用品を捌きました。売っている途中で詐欺に遭いかけるのはまた別の話…

Facebook Marketなどで売るために撮った椅子の写真。結局この椅子は売れず、一旦まだ滞在している同級生に預けている

片付けもしつつ、ハウスメイトの計らいでハウスメイト4人とその友達1人と最初で最後のイギリス内小旅行としてBristolに1日いきました。Bristolに住んでいたことのあるDamienに案内をしてもらいつつ軽く歩いたり公園でご飯を食べたり、港でお酒を飲んだり。あまり計画を練らない軽い旅行でしたがとても楽しかったです。気候もちょうど良く。

ブリストルの公園で。こっちの公園は芝で座りやすいのが◎

旅行の後は粛々と荷造りと掃除を進めていきました。もちろん80kgは持ち帰りきれないので、20kg分はParcelForceで送り、いくつか日本で使わんだろうというものはイギリスに滞在するハウスメイトの家に預けさせてもらい、スーツケースは大きいのが1つだけだったので新たに小さいものを1つ購入しました。荷物を送るためには税関を通すために品名1つ1つを書く必要があり、ただただ面倒でした。これからの引越しが思いやられます…とはいえ、こちらのParcelForceで別送品を送った記事のおかげで手続きはスムーズに済みました。1週間経たずに届いた上特に傷もなく、安かったのでとても良かったです。

帰国の数日前には、お土産の購入と大曲さん、Hiromu Okaさんに会うため最後のロンドンにいきました。荷物がいっぱいいっぱいなのでお土産はコンパクトに収めて買いつつ(まだ渡してない人もいるので内緒!)大曲さんのお家にお邪魔しました。大曲さんのお宅では、一年の経験や気づき、これからの進路などを話したり、本を見させていただいたりして、最後には大曲さん謹製の鶏骨ラーメンをいただきました。正直イギリスで食べた食事の中で一番美味しかったかもしれません。こういうことができるからイギリスに住めるんだなあと感じますね…

大曲さんのラーメン。感動というほかない。麺以外はほぼ自家製とのこと。 大曲さんと僕の写真。6年前に大曲さんにレディング大学院の存在を教えていただいてからようやく卒業。感慨深い

その日の最後にはHiromu Oka さん(OTPさん)にお会いし、パブでお酒を飲みながらお話ししました。OTPさんは僕とほとんど同時期に渡英されていて、イギリス生活に適応されていく様子を見ながら勝手に勇気をいただいていたので、思い切ってお声がけさせていただいたのですが、短い時間の中でも業界が違う中でいろいろなお話ができ、また今後の進路についても勇気をもらえました。自分のように大学院という拠り所がある状態とは違って飛び込んでいく様がかっこいいなと思います。

渡航、帰国

それから帰国の日までは本当にあっという間で、荷造りと発送準備、掃除をしていたらあっという間に退去&帰国の日に。朝に早い便で帰るハウスメイトを見送った後、11時に退去だったのでちょっと前にまた別のハウスメイトの新居への引っ越しを少し手伝い、そのまま荷物を発送。解体した椅子や日本で使わなそうな本と服をハウスメイトに預けさせてもらった後、クラスメイトと3人で最後のお昼ご飯を食べ、バスでヒースロー空港へ向かいました。

家を出る時の荷物。右側が自分のもの。右手前の段ボール二つはParcelForceで発送し。奥の段ボールと赤い袋はハウスメイトに預けた。 ヒースロー空港にて、荷物。あらゆる鞄がパンパンになっている

今回利用したのはカタール航空。安い上にサービスやアニメティもよく、次回も利用したいと思いました。学生クラブの特権で預け入れ荷物が10kg増えて40kgまでOKだったのですが、自分の預け入れ荷物は48kgだったため300ポンド(5万円くらい)払う羽目になりました。金で解決できたなら良いと考えるべきなのか…とはいえ高い…もちろん持ち込みの荷物もパンパンで測ったら普通に7kgとか超えてそうです。もっと配送で送りまくっておけばよかったなあと今は思ってます。
ヒースロー空港に着いたのは昼過ぎくらいでしたが、飛行機は夕方だったので空港内で喉を潤しながら軽く作業をしながら待ち。乗り込んだ飛行機は幸い僕の列は誰もおらず、最後列なので後ろを気にする必要もなく。まずはカタール、ドーハに向かいます。イギリスからカタールまでは6時間ちょっとくらいで、前日が半分徹夜で眠かったのもあり、チキンカレー(美味しい)を食べたりブラックパンサーみたりうとうとしていたらあっという間でした。

ドーハの空港、中にモノレールが走っていたり、今まで行った空港の中でも一番綺麗。 空港内は天井が高く、中庭のような場所もあり空港とは思えない豪華絢爛さ。これが中東か

ドーハ空港は今まで行った空港の中でもかなり綺麗で、なんか屋内に木があったりモノレール走っていたり広い空港でした。が、空港は朝5時でもイギリス時間は深夜2時。疲れ切っていた自分は次の飛行機のゲートの辺りでずっと休んでいました。何をしていたかはいまいち覚えていません…日本行きということもあり、周りは日本人が増えてきました。

日本行きの便はイギリスからの便より混んでおり、流石に列も埋まった状態。10時間超のフライトは、映画を見ようとしても見始めるとすぐうとうとしまって見れず。機内WiFiを支払っていたのでTwitterを見たり、うとうとしたり、Switchでメガテン5をやったりしながら時間を潰しました。ご飯は最初はペンネを、次は鶏の何かを食べたのですが、どちらも美味しく間違いなかったです。渡英の際のエミレーツもそうですが、中東系の航空会社はごはんが美味しくてポイント高いですね。

機内食のペンネ。やや濃いめの味付けで美味しい

最終的に、7/1の夜23時ごろ日本、羽田空港に到着。30分くらい早い到着でしたが、荷物がなかなか出てこなくて最終的に空港を出たのは24時を回った後でした。日本への入国時の税関にめんどくささを感じていたのですが、最近はデジタル庁の働きなのか携帯品の申告がデジタルでできるようになっており、非常にスムーズに済ませることができました。ホテルへのバスはもうなくなっていたのでGOでタクシーを取ってホテルに向かい、その日はさっさとシャワーを浴びて休みました。(タクシーは30mくらい並んでてこれは…と思ったんですが、GOで呼んだら5分で来たので知っている者勝ちって感じでしたね…)

次の日は12時に大学の友達と銀座でご飯の予定でした。…が、8時に目が覚めて、まあまだ寝れるかと思って目を瞑ったら12時になっていました……昼に遅れるわけないと思って目覚ましをかけていなかったり、カーテンが閉めっぱなしで日光が入ってこなかったのもあり寝坊をかましてしまいました。その後駅の入り口がわからなくて歩き回ったり、間違えて急行から各停に乗り換えちゃったりしつつもなんとか銀座で友人との食事に合流。そしてカフェに行って現地の話をした後、岐阜の実家に帰りました。10ヶ月弱の留学。長いようで本当にあっという間で、もっとやれたことがあったなあという気持ちもありつつ、知識も価値観も多くの学びがあり、間違いなく言って良かったと言える体験でした。

銀座で食べたシュラスコ。和食じゃないんかいという感じだが銀座でシュラスコは大学の友人との定番になっている

イギリスと日本、価値観や色々の違いへの気づき

渡英の際、自分はイギリス、欧州への暮らしへ憧れていましたし、俗に言う「日本脱出」のような気持ちで海を超えた覚えがあります。しかし、1年弱行った今思う感想は、「日本にいた時はあまり見えていなかっただけで、日本にダメなところがあるようにイギリスには別のダメなところがあるし、海外に見えていた良いところと同じくらい日本にも良いところがある」という感じです。そして、自分は日本に生まれ日本で24年育ってきた身。ようやく日本とイギリスをフラットに見られる今、「イギリスに一生住み続けるのは厳しいだろうな」と言うものが正直なところです。

まあまずはご飯ですね。前の記事にも書きましたが、値段がとにかく高い上に味はそこそこだなあと言う感覚があります。美味しい食事がある一方でバリエーションの少なさも感じます。スーパーでの野菜やお肉、お魚の品揃えも日本の方が豊富な気がします。自分で拘れるならやりようはありそうですが、学生で学業の側食事をしていく身ではなかなか厳しく思いました。そして、飲むところも基本的にパブなのでほぼビールですし、食事もフライやハンバーガーなどがメイン。甘いお酒をよく飲み、また食事も楽しみにしている自分としては日本の居酒屋が恋しかったです。
そして洗面とか水回りも基本的に日本のものが使いやすく多機能です。なんで同じ島国だし技術力も大差ないだろうに進化しないんだろう?と最初は感じていたのですが、最終的に自分のたどり着いた結論はシンプルに国民性として風呂や食事を重要視していないんだろうなと感じています。大切にするから進歩するのだなと。そしてこの二点に関しては日本を勝るところはなかなかないんだろうなと同時に感じました。

そして何かと物価が高いのもあります。ポンドがかなり高くなっているのもありますが、ポンドで暮らしていても食品や外食は高いなあと感じると思います。学生は支払うばかりで稼ぎはないので、苦しいところでした。
一方で、一年を通しての気候は冬を除けばイギリスが圧倒的に良いです。エアコンがないという問題はありつつも基本的に涼しく、湿度もなく。雨ばっかり降っているみたいな話がありますが、そんなに降りませんし降っても10分程度でやむことが多く、一日中降り続けて陰鬱な気持ちになる日本と比べるとイギリスの方がその点は住み良く感じました。そんな感じでたまに降るので、自分自身傘を刺すよりも防水のアウターでなんとかすることが増えたように思います。
一方、冬は寒い上に日が短く気が落ち込みます。16時くらいに暗くなってしまうため一日なんもやってない感が強く、自分も例に漏れず冬季うつっぽい状態になっていました。電気代の節約のため時間制でセントラルヒーティングをつけていたのですが、自分の部屋は大きな窓があったため他の部屋より寒く、部屋の中でダウンを着込んだりしている程度には凍えていました。その上電気代も高かったのが辛いですね…

まあそんな感じで、日本もイギリスもいいところ悪いところがあるなと改めて感じます。これはイギリスからドイツやフランスに移ったらまた変わるでしょうし、欧州と一括りにするのも良くないしエアプで語るのも良くないなと感じます。日本、よくないところもたくさんあるけどいいところもたくさんあるなと今は思っています。

これからのキャリア、5年後10年後の計画

日本に帰ってきてすぐの7月初頭、自分はかなり精神的に落ち込んでいました。というのも、5年前からレディングへの留学を目標にひた走ってきたので、それを達成したいま次に向かう目標が、走り続けるためのガソリンが切れてしまったような気持ちだったからです。留学した時はまあ留学できれば書体ファウンダリに就職もできるだろうとたかを括っていましたが、現実はそう簡単ではありませんでした。グラフィックデザインやブランドデザインの傍ら書体デザインを学ぶ人などもいるとはいえ、例年書体ファウンダリに就職できるのは2, 3割のほんの数人。そして、自分が留学している間書体デザイナーの求人はほとんどないという状況でした。

そして、仮に求人があったとしても自分が就職できる確率は低いと言わざるを得ません。書体デザインを学べるコースを持っている学校が増えている昨今、欧文書体デザインができる書体デザイナーは溢れつつあります。もちろん同級生や他の学校の学生も欧文は作れるわけなので、ネイティブレベルで英語が使える彼らと自分を比べた時、採用されるのは当然よりコミュニケーションがしっかり取れる彼らの方です。では、自分はこれからどうしていけばいいのか。今就職を勝ち取るには、以下のいずれかの要素が必要になってくるのかなと感じています。

  1. アラビアやインド、アジアの言語など、マイナーな言語・スクリプトを作ることができる
  2. CJK、日本語のスクリプトを作ることができる
  3. フォントエンジニアリングやスクリプティングができる

正直3はデザイナーの標準装備的になりつつある気もしますが、エンジニアリングは将来的に習得したいとしても、ひとまず自分は1か2を選ばなければなりません。Arabicなどを作ることに楽しさは感じていたものの、あまりマイナーな言語にそこまで興味を持てなかった自分は今後2の方向、すなわち和文も多少作れるようになろうと今は考えています。すなわち、欧文を学びにレディング大学院に行って得た最大の知見は、「欧文だけでは就職できない」という事実だったのです。

そして、同時に自分は日本人であることから逃げることはできないというのも学びでした。日本人である以上、たくさんの人が自分に「和文書体が作れること」を予想し、期待してきます。いくら自分が欧文だけやっていても、日本人というアイデンティティから逃れることはできないのです。
最初はその事実にやや落胆していたものの、正直なところ今はプラスに捉えられています。というのも欧州に生まれたら自然な感覚を身につけられているスクリプトはラテンだけですが、自分は元から和文のデザインの快・不快を身につけているわけです。日本語は話すのも作るためのバランス感を得るのも難しい言語だと思いますし、その点で考えれば自分は2スクリプトを扱えるわけで、それってめちゃくちゃアドじゃんと考えられるわけです。

今年

日本では欧文の需要もまだあるものの、自分の気持ちとしてやはり海外のファウンダリで経験を積まないことには胸を張って仕事ができないだろうと感じています。なので、今後は和文もある程度できる体でイギリスや欧州の書体ファウンダリへのアプライをしていこうと考えています。とはいえ何もせずアプライだけするわけにはいかないので、まず直近1つ募集が出ているところを受けてみて、もしそこがダメならば一旦日本で就職をしようと考えています。現状はブランドデザインやグラフィックデザインの事務所に入り、書体デザインのスキルを活かしながら仕事をして、同時に文字塾などで和文を鍛えつつ海外のファウンダリへの就活を続けていきたいと思います。

将来

海外のファウンダリで数年経験を積んだ後、いずれは日本で自分のファウンダリを持つという目標は今も変わっていません。しかし、今まで考えていた通常のファウンダリの形であるRetail, すなわち小売の書体の販売とBespoke, カスタムフォントの他にエンターテイメント・サブカルチャー業界向けの小規模な書体制作もできたらいいなと考えています。
NDCで働いていた2年間や、その後様々なデザイナーの方々と知り合う中で、やはり自分はエンターテイメントのデザインが好きだし、関わりたい、続けたいという思いがありました。しかし自分が書体デザインの片手間でエンターテイメントのデザインもやると考えると、自分よりも上手い人がたくさんいるし、誠実ではないような、ちょっとしっくりとこない気持ちがありました。
それなら、自分の専門領域で業界と関わるのが一番良いのではないかと思いたどり着いた結論が小規模なカスタム書体制作です。自分がNDCの仕事として「月とライカと吸血鬼」や他の作品をやらせていただいたように、1つのアニメだけ1つのMVだけ、といった使われる字種やスタイルが限られた、1つのプロジェクトだけに使われる書体をインスタントに作れないかと考えています。最近は書体制作をするグラフィックデザイナーさんもいらっしゃいますが、書体デザイナーとしてより効率的に、高品質な書体を卸し、作品のためにオリジナルのフォントを用意する、という文化を定着できたら面白そうだな、と思っています。

もちろん、書体のために現状そうそう簡単に予算は出ないでしょうし、どれくらい効果が発揮できるかも未知数です。だからこそそこにやりがいやチャンスがあると思いますし、今後チャレンジしていきたいと考えています。もし興味があったら、ぜひぜひお声がけください!
後、今まで自分が作った書体もキャラクターセットやスタイルを拡張しながら知り合いの方には有償で提供していけたらと考えているので、もし興味がある方がいらっしゃればそちらもお声がけいただけたら幸いです。

おわりに

最近はムサビの後輩の小原くんが僕の書体のNarukamiを仕事で使ってくださったり、卒業論文のインタビューなどでいろんな人に会うことができ、改めて人と会って話す楽しさを感じています。9月初めに卒論の提出がありつつも、ちょくちょく東京には行くと思うので、ぜひご飯などお誘いいただけたら幸いです。それでは、暑い日が続きますが熱中症などにお気をつけて。今後もよろしくお願いいたします。